2015-11-12

板橋両親殺害事件

 今月初め、15歳の息子が社員寮の管理をする両親を殺した事件で東京地裁が懲役14年を宣告した。
 父親は創価学会の熱烈な信者で勤行に明け暮れ、自分の仕事を息子に押し付け、随分威張り散らした。
 息子はそれが犯行の動機だと語り、判決が「父親失格」に言及してくれるのなら「どんな刑でも受け入れる」と話していた。
 しかし裁判長はその思いに触れず、尊属殺の規定が生きているかのように息子の身勝手をのみ指摘した。

【『変見自在 サダム・フセインは偉かった』高山正之(新潮社、2007年/新潮文庫、2011年)】

 2005年6月20日に起こった板橋両親殺害事件である。ネット上では驚くべき速さで創価学会員一家であることが吹聴された。尊属殺とは「父母と同列以上にある血族(尊属)を殺害すること」(Wikipedia)で、仏教の五逆罪と似た価値観だ。親殺しの罪は重く子殺しの罪は軽い。1995年、村山政権下で法改正されるまで加重規定は生きながらえた。

 高校1年の息子は重さ8kgの鉄アレイで父親の頭部を6~7回殴りつけ、口から漏れ出る空気の音を止めるべく包丁を首に突き刺した(板橋両親殺害事件での量刑)。母親は胸を数十ヶ所刺されていた。少年は「ガスの元栓を開いたうえで、ガスコンロにつながるホースを切断」(寮爆発・管理人夫妻殺害、15歳長男を逮捕)した上で、「電熱器の上に殺虫剤のスプレー缶を置き、テーブルの下にサラダ油を撒いた」(板橋区・管理人夫婦殺害事件)。そして電熱器のタイマーを4時間後に設定し家を出た。

 息子は虐待されてきた。虐待には身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・ネグレクト(育児放棄)の4種類がある。幼い頃から虐待されながら育った子供たちは虐待されていることを自覚できない。ここに虐待の恐ろしさがある。

「土曜、日曜、夏休みも関係なく食事の準備や掃除など寮の仕事でこきつかわれた」「母親はいつも仕事が忙しく可哀そうで、『死にたい』と話していたので一緒に殺した」と犯行後に語っている(板橋区・管理人夫婦殺害事件)。

 もしも親が創価学会員でなければ事件が起こることはなかったのだろうか? 少なくともその可能性はあるだろう。学会活動は人生から時間を奪う。それも信じ難いほど大幅に。私の場合だと20代後半からほぼ毎日19~23時は予定が入っており、深夜1時、2時になることも珍しくなかった。殺された父親が学会活動をしていなければ、その分の時間を仕事に当てた可能性はある。

 もちろん虐待する親はいかなる状況でも虐待することだろう。その主な要因として専門家は知的障害・発達障害・精神障害を挙げる。

 老婆心から申し上げるが創価学会は本気で訴訟リスクの対策を行うべきだ。学会活動に起因する交通事故・失業・精神疾患・財務トラブルなどが一度でも法的に認められれば、会員は次々と訴訟を起こし始めるに違いない。容易に録音や録画のできる時代である。宗教行為の強制性を証明することはさほど難しくない。

 少年は加害者でもあり被害者でもあった。15年間生きてきて懲役14年の刑が下る(※控訴審で12年に)。「生き延びるためには殺さざるを得なかった」と私は考える。

 尚、賛否いずれにせよ書籍で紹介された創価学会情報のラベルを「創価学会資料」とする。ただし創価学会そのものを扱った書籍は除く。

変見自在 サダム・フセインは偉かった (新潮文庫)

両親を惨殺した少年の闇…板橋管理人夫婦殺害事件・控訴審判決
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Kさんへの手紙5:軽視される精神的虐待