2013-12-04

共産主義者と創価学会員との酷似

 だが、投票のために闘う意義は理解できなかった。新聞販売のための闘いも、やはりおなじだった。そんな気になるのも、おそらくは、だれもが画一化されてしまう仕事だからであろう。支部の会合で、10人かそこらの、党員があつまったときだと、新しい社会をつくるための使命を論じあうこともあるし、社会主義の先鋒という気持ちになることもある。歴史の必然性について語って、信念をもつことも可能だが、そのあと、街へ一歩踏みだすと、事情がまったくかわってしまう。腕いっぱい《デイリー・ワーカー》をかかえこんで、1部売るのに、1時間も2時間も待つことがたびたびある。そこで、だれもがするのをまねて、彼女もまた、ときには嘘をつくことがある。売れもしないのに、売れたような顔をして、1ダースほど、自分の金で買いとって、帰宅してしまうのだ。つぎの会合では、いかにもたくさん売ったように、自慢してみせる。自分で買いとったのも忘れたように――“同志ゴールドは、土曜の夜、18部も《ワーカー》を売った――18部も!”それは、その夜の議事録に掲載され、支部会報に転載される。喜んだ地区委員が、闘争基金報告書の第1面で、小さな文字だが、賛辞を贈ってくれる。これはそれほど小さな世界なのだ。みんながもっと、正直でいてくれたら! 彼女は自分自身に嘘をつく。おそらくそれは、だれもがしていることで、ほかの人たちは、嘘をつかなければならない理由を、彼女以上に知っているのであろうが。

【『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ:宇野利泰訳(ハヤカワ文庫、1978年)】

 原書は1963年刊。ル・カレの名を不動の地位に押し上げたスパイ小説だ。1963年のゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会が選ぶ最優秀長編賞)に輝く。それどころか同協会が2005年に発表したダガー・オブ・ダガーズ賞(歴代ゴールド・ダガー賞の最高峰)に選ばれた。1965年にはアメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)最優秀長編賞も受賞。ここからスマイリー三部作が生まれた。

 主人公リーマスの恋人であるリズ・ゴールドはコミュニストだった。創価学会員と共産主義者の類似性については既に何度か書いてきたが、これほど見事な活写もあるまい。やはり一流の文学は万般に通じるモデル(標準)を描いていて考えさせられる。

 人々が同じように動くメカニズムが働く以上、思想の違いを問うことに意味はない。組織【された】人間が同じ表情をしているとすれば、組織主義が人間の奴隷化を目指す現実をしかと見据えることが重要だ。「組織のあり方」を論じることも無意味だ。組織はトップダウンで動くのだから。歴史的に見ても民主主義というのは飽くまでも少数コミュニティ(地方自治体レベル)の概念なのだ。

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))

朝鮮労働党からの除名と創価学会からの除名を考える