2013-06-24

アッシュの同調実験からミルグラム実験が生まれた

 権威に対するミルグラムの幅広い関心を具体的な研究プランに変えることを可能にする実験の手法に思い至ったのは、1960年の春か初夏のころのことで、アッシュのためにプリンストンで働いていたその最後の数カ月の間のことだった。そのアイデアはアッシュの同調行動の実験に基づいたものだった。ミルグラムは、アッシュの実験と服従を研究するための彼の実験手法のアイデアのつながりについて次のように述べている。

 私が考えていたのは、アッシュの同調実験を人にとって意味のあるものにするための方法だった。同調するかしないかを調べるために線分の長さを判断するという課題を使うことには満足できなかった。集団がある個人に圧力を加えて、その人に対する何らかのはっきりとわかる行動をすることにしたらどうだろうと考えた。たとえば、だんだん強まる電気ショックを与えるというように、人に対して攻撃的な行動をするのである。しかし、集団圧力を研究するには……。集団圧力がない場面で人がどのように行動するかを知らなければならない。まさにそのとき、この実験における支配関係そのものにターゲットをしぼったのである。いったい、人は実験者の命令にどこまで従うのだろうか。これこそ、まさに光り輝く瞬間だった……。

 服従は、誰でも知っているように、社会生活の構造のなかの基本的な要素である。どのような権力システムにおいても、命令に対しての反応に命令と実行の構造が内在している。
 問題は、服従の限界という話ではない。ある状況、たとえば、戦争時の軍隊でのように、他の人を殺すように命令されることもあるだろう。その場合には人はその命令に従うだろう。また、自らの命を破壊するような命令が下され、それに応じるということもあるだろう。したがって、この研究の目的は、決して服従の絶対的な限界を究めようとするものではない。実験室場面では、私たちは最大限の服従を引き起こすような条件を作り出すことはできない。現実の生活のなかの状況だけが、人から最高度のレベルの服従を引き出すことができるのである。(1960年、財政支援を依頼するためにミルグラムが政府機関へ出した手紙)

【『服従実験とは何だったのか スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』トーマス・ブラス:野島久男、藍澤美紀訳(誠信書房、2008年)】

服従実験とは何だったのか―スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産

アッシュの同調実験/『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
スタンレー・ミルグラム